理事長挨拶:皆でアジア研究の面白さの共有を
第28代理事長(2023~2025年期) 清水一史
アジア政経学会は、今年2023年に創立70周年を迎えました。1953年に創設された本学会は、戦後最も早く設立されたアジア関連学会の一つで、アジア研究では日本最大の学会です。アジアに関する地域研究を促進してその成果の普及を図ることを目的とし、研究対象地域は東アジア、東南アジア、南アジア、広域アジアに及び、政治、経済、法、歴史、社会、国際関係など社会科学の諸分野を包含します。創設以来、毎年数回の大会を開催してきています。創設翌年には学会誌『アジア研究』を創刊して現在まで続いています。
先人の方々の尽力と支援で本学会が発展し、70周年を迎えることができました。感謝申し上げます。そして、今後に向けて、更に発展させて行きたいと考えています。2023年6月には、東京大学駒場キャンパスで、70周年記念大会を開催して頂きました。開催校の東京大学と実行委員会、研究企画委員会を含め多くの皆さま、ありがとうございました。また70周年記念の企画の一環として、『アジア研究』には歴代理事長インタビューも連載されています。
2021年から2023年期の佐藤百合理事長に代わり、2025年期までの2年間、この歴史と伝統のあるアジア政経学会の理事長に就任することとなりました。大きなやりがいと重責を感じています。学会を取り巻く状況は厳しいですが、多くの活動を展開して行く所存です。
現在、アジアの政治経済状況のみならず、世界の政治経済状況も、緊迫した局面にあります。世界全体では、米中対立と保護主義の拡大、ロシアのウクライナへの軍事侵攻などがきわめて大きな負の影響を与えています。アジアでも、ミャンマーの軍事クーデターや東シナ海・南シナ海を巡る問題、北朝鮮を巡る問題など、多くの難題があります。加えて、アジアにおける民主主義の後退も懸念されています。
このような状況の中で、アジア研究の重要性はますます高まると考えます。アジア各国の現状を多面的かつ長期的な視点から理解すること、更にはアジアを地域として俯瞰的に把握することなしに、現在直面する諸問題に対応するのは困難でしょう。その際、広域のアジアを対象とし、多様なディシプリンの専門家を擁する本学会は、大きな力を発揮できると考えます。アジア政経学会という場を通じて、アジア研究をより一層発展させて行きたいと考えています。
そしてアジア研究の面白さを学会員皆で共有し、次の世代にも伝えて行きたいです。アジアの政治経済や社会は多種多様でダイナミックであり、その実態に迫るところにアジア研究の醍醐味があるように思います。学問は、もちろん骨の折れる面がありますが、何より自分自身の知的好奇心が出発点になるはずです。6月の70周年記念大会では、対面でのセッションに加えて、コロナ後初の懇親会も開催できました。研究の楽しさを共有するという点では、対面での意見交換が有意義であることも再確認しました。
若い方々とアジア研究の面白さを共有するとともに、是非、本学会が若い研究者をサポートできるようにしたいと考えています。現在、日本の大学における研究環境は厳しさを増していますが、アジア研究を志す大学院生や若い研究者を少しでも学会として支援し、多くの機会を提供します。アジア政経学会の春季・秋季大会で報告すると、その分野の専門家から適切なアドバイスを受けることができます。また本学会では、異なる地域やディシプリンの専門家からコメントをもらうこともできます。少し違った視点からの意見が、研究を発展させる上で有益なヒントになることが多々あります。若手研究者を対象とした定例研究会も開催しています。自身の研究成果を世に問う機会として、学術大会や定例研究会を大いに活用してください。
学会報告にとどまらず、『アジア研究』にも積極的に投稿してください。報告や論文が多くの方々の目に触れることで、その後の研究や就職にもつながります。『アジア研究』に掲載された場合には、優秀論文賞に選ばれるチャンスもあります。是非、本学会を色々なかたちで活用してみてください。
70周年を迎え、多数の専門家を擁するアジア政経学会で、世代を超えてアジア研究の面白さと楽しさを共有して行きたいと思います。そして、アジア政経学会がアジア研究の重要なプラットフォームとなるよう、力を尽くします。
ご助言やご助力を頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。